Jeff Bezos「80歳の自分は後悔するか?」|人生を決めるのは才能ではなく選択なのか

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「やらない後悔より、やって後悔したほうがいい」

一度くらいは聞いたことがある言葉ではないでしょうか。

確かに、何もしなければ何も変わりません。

行動したことで失敗しても、あとから振り返れば経験になったり、笑い話になったりすることもあります。

でも私は、この言葉をそのまま信じることには少し抵抗があります。

失敗には、やり直せる失敗もあれば、人生を大きく傷つける失敗もあるからです。

では、私たちは何を基準に人生の選択をすればいいのでしょうか。

Amazon創業者Jeff Bezosは、2010年に母校プリンストン大学でこんな問いを投げかけました。

80歳になった自分は、その選択をどう振り返るだろうか。

今回は、この言葉について考えてみます。


Jeff Bezosが卒業生に語った「選択」の話

2010年5月30日、Bezosはプリンストン大学の卒業生を前に講演しました。

一般に「卒業式スピーチ」と紹介されることもありますが、正確には卒業関連行事の一つであるBaccalaureate ceremonyでの講演です。タイトルは「We Are What We Choose」でした。

講演の冒頭で語ったのは、意外にもAmazonの話ではありません。

10歳頃、祖父母との旅行中の出来事でした。

計算が得意だったBezos少年は、祖母の喫煙によって寿命がどれくらい短くなるかを計算し、それを得意げに伝えます。

ところが祖母は泣いてしまいました。

そのとき祖父から言われたのが、

“It’s harder to be kind than clever.”

という言葉でした。

そしてBezosは後に、

“Cleverness is a gift, kindness is a choice.”

と語ります。

頭の良さは与えられた才能かもしれない。

しかし、それをどう使うのかは自分で選ぶ。

この「才能ではなく選択」という考えが、講演全体の軸になっています。


Amazonを始めるか、それとも安定した仕事を続けるか

BezosがAmazonの構想を思いついた1994年、彼はニューヨークの金融会社で働いていました。

インターネットが急速に普及していることを知り、オンラインで本を販売する会社をつくることを考えます。

しかし、彼にはすでに良い仕事がありました。

上司に相談すると、「良いアイデアだが、すでに良い仕事を持っていない人にとっては、さらに良いアイデアだ」という趣旨の助言を受けます。

Bezosは48時間考えました。

そして最終的に、

失敗したことよりも、挑戦しなかったことを将来後悔するのではないか、と考え、会社を辞めます。

2020年の米議会での証言でも、Bezosはこの出来事を振り返っています。

80歳になって人生を振り返ったとき、後悔をできるだけ少なくしたい。特に自分が恐れたのは「やらなかったこと」だった、と説明しています。

これが、いわゆる「後悔最小化」という考え方です。


でも、80歳の自分なんて本当に分かるのだろうか

この考え方は魅力的です。

大きな決断で迷ったとき、

「80歳の自分ならどう思うだろう」と一歩引いて考える。

目の前の恐怖や損得から離れる方法としては、確かに役立つかもしれません。

ただ、私はここで少し引っかかります。

そもそも80歳の自分が何を後悔するのかなんて、今の自分には分からないのではないでしょうか。

10年後ですら分からない。

これから誰と出会うのか。

どんな仕事をしているのか。

社会がどう変わるのか。

自分自身の価値観がどう変化しているのか。

まして80歳の自分を正確に想像することは、私にはできそうにありません。

意思決定の研究でも、将来の後悔を想像することは実際の選択に影響します。しかし、後悔を避けようとすることが常に良い判断を生むわけではなく、リスク回避や情報を避ける行動などにつながる可能性も指摘されています。

未来の後悔を考えることは、一つの道具ではある。

でも、それを人生の絶対的な判断基準にするのは難しい。


私なら「80歳」ではなく「今」を基準にしたい

では、何を基準にするのか。

私自身は、

「今の自分が後悔しない選択をする」ことのほうが大切なのではないかと思っています。

これは「今さえ楽しければいい」という意味ではありません。

未来を考えなくていいわけでもありません。

私たちの今をつくっているのは、過去の自分です。

そして未来の自分をつくるのは、今の自分です。

ただし、未来には自分ではどうすることもできない不確実性があります。

だから80歳の自分を想像して正解を探し続けるより、

今ある情報の中で考え、今の自分が納得できる選択をする。

そしてまた次の瞬間に考える。

その繰り返しでいいのではないでしょうか。

80歳の自分が後悔しない人生とは、80歳を見続けて生きた結果ではなく、その時々で納得できる選択を積み重ねた結果なのかもしれません。


「やらない後悔より、やって後悔」は本当に正しいのか

ここでもう一つ考えたいことがあります。

よく、「やらなかった後悔は一生残る」「やった失敗なら後で笑い話になる」と言われます。

ただ私は、この考えが成り立つのはある程度までの失敗だと思っています。

小さな挑戦なら、失敗してもやり直せます。

新しいことを勉強してみる。

知らない場所へ行ってみる。

何かをつくって公開してみる。

こうした挑戦なら、うまくいかなくても経験になります。

しかし、世の中の失敗すべてが笑い話になるわけではありません。

生活を立て直せなくなるほどのお金を失う。

大切な人との関係を壊す。

健康を大きく損なう。

そうした失敗まで、

「やらないより、やったほうがいい」とは言えないでしょう。

だから私は、

「失敗を恐れず行動する」と「致命傷を負うほど賭ける」は分けて考えたい。と思っています。

興味深いのは、これはBezos自身の考えとも完全に矛盾してはいないことです。

Amazonの2018年株主向け書簡で、Bezosは、大きな発明を続けるなら大きな失敗も起こると説明しています。

実際、Fire Phoneは失敗しました。

一方で、同時期に開発していたEchoやAlexaは別の方向へ成長しました。

ただしBezosは、大きな失敗を無計画に受け入れるのではなく、一つ一つを「良い賭け」にする努力をすると書いています。

挑戦することと、無謀になることは違う。ここは忘れたくないところです。


成功した人の「挑戦しろ」をどう読むか

さらに注意したいのが、成功者の言葉です。

BezosはAmazonを始め、世界的企業へ育てました。

結果だけを見れば、

「安定した仕事を辞めて挑戦したから成功した」

という美しい物語になります。

しかし当然、同じ時代に会社を辞めて起業し、うまくいかなかった人もいたはずです。

彼らの講演を私たちが聞く機会は、成功した人ほど多くありません。

いわゆる成功者バイアスです。

だから、「Bezosも挑戦した。だから私も挑戦しよう」だけで終わらせるのは危険だと思います。

一方で、成功者だから学ぶ価値がないわけでもありません。

むしろ、

その人が何をして成功したか以上に、どんな失敗をして、それをどう乗り越えたのかを見ることのほうが大切なのではないかと思っています。

Amazonにも失敗はあります。

Bezos自身が株主向け書簡で大規模な失敗について語っていることからも、現在のAmazonだけを見て「選択がすべて正しかった」と考えるべきではないでしょう。

成功とは、失敗しなかった結果ではなく、失敗しても続けられる状態を残しながら、試行錯誤を続けた結果と見ることもできます。


お金は「成功するため」ではなく「選べるため」に持ちたい

ここから、お金の話をしていきます。

お金を増やすこと自体が人生の最終目的になってはいけないと思っています。

1,000万円。

3,000万円。

1億円。

数字が増えていくことだけを目的にしてしまえば、どこまで行っても終わりはありません。

では、なぜ資産形成をするのか。

私にとっては、

将来の自分が選べる範囲を広げるためです。

仕事を続ける。

辞める。

働き方を変える。

勉強する。

休む。

何か新しいことを始める。

もちろん、お金だけですべてを自由にできるわけではありません。

それでも、ある程度の経済的余裕は、「選ばなければならない人生」から「選べる人生」へ近づく手助けにはなると思います。

だから資産形成は、資産額という数字を競うことではなく、

未来の選択肢を少しずつ買っているとも考えられるのではないでしょうか。

これは、長期投資にもつながります。利益が出るたびに何かをする必要はない。

暴落のたびに感情で動く必要もない。

目的が「一番儲けること」ではなく、「未来の自由を少しずつ増やすこと」なら、投資との付き合い方も少し変わってきます。


AIの時代だからこそ、人とのつながりを選びたい

最後に、Bezosの話から少し離れて、今の自分が大切にしたいものについて考えてみます。

それは、人と人とのつながりです。

AIが発展し、以前なら人に聞いていたことをAIに聞けるようになりました。

調べものも、文章を書くことも、仕事の一部も、少しずつデジタルで完結するようになっています。

できることは確実に増えています。

私自身も、その恩恵を受けています。

でも、だからこそ逆に、人との関係は意識して大切にしなければならないのではないかとも感じます。

便利になることと、大切なものが増えることは同じではありません。

Bezosが10歳の頃に祖父から教えられた「賢さと親切さ」の話も、AI時代の今に読むと少し違って見えます。

知識や計算は、これからさらに機械が代替していくでしょう。

しかし、その知識を誰かのためにどう使うのか。

誰かにどう接するのか。

どの関係を大切にするのか。

そこにはまだ、私たち自身の「選択」が残っています。


人生は選択でできている。でも、正解を選び続ける必要はない

Bezosは講演の最後を、

“In the end, we are our choices.”

という言葉で締めくくりました。

私は、この言葉には賛成です。

生まれた環境も、才能も、運も、すべて自分で選べるわけではありません。

どうにもならないことは確かにあります。

それでも、何もしなければ何も変わらない。

そのこともまた事実です。

ただし、私は「80歳の自分が後悔しない選択」をずっと探し続けることはできそうにありません。

未来は分からないからです。

だから私なら、

今の自分が考えられる範囲で考える。

多少の失敗を受け入れて動く。

でも、立ち直れないほどの失敗は避ける。

そして、また次の選択をする。

人生とは、大きな一回の決断で決まるものではなく、そんな小さな選択の積み重ねなのかもしれません。

80歳になったときに後悔しているかどうかは、今の私には分かりません。

それでも、

今日の自分が納得できる選択を一つずつ重ねていくことなら、今からできます。

あなたなら、未来の自分ではなく、「今の自分」が後悔しないために、今日は何を選びますか。

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