Sheryl Sandberg「プランAが失われたとき」|後悔しても、前に進めるのか?

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探偵パンダ|人生とお金を考える 第7回

人生が思いどおりにならなくなったら、どうしますか?

人生には、自分の力ではどうにもならないことがあります。

思い描いていた仕事に就けなかった。大切にしていた人との関係が終わってしまった。突然の病気や事故によって、これまでの生活が変わってしまった。

どれほど準備をしていても、どれほど努力をしていても、避けられない出来事はあるのでしょう。

では、そんなとき、私たちはどうすればいいのでしょうか。

過去を忘れて、新しい人生を歩むべきなのでしょうか。それとも、失ったものを思いながら生きていてもいいのでしょうか。

私は、すぐに答えを出す必要はないと思っています。

悲しむ時間があってもいい。立ち止まってもいい。過去を振り返り、後悔することだってあるでしょう。

それでも、いつかは自分なりの道を見つけ、少しずつ進んでいくしかないのかもしれません。

今回取り上げるのは、元Facebook最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグです。

彼女は2016年、カリフォルニア大学バークレー校の卒業式で、突然夫を失った経験について語りました。

そこで語られたのは、成功するための方法ではありませんでした。

自分が望んでいた人生を失ったとき、人はどう生きていけばいいのか。

その問いについて、私も考えてみたいと思います。

突然失われた「プランA」

2016年5月14日、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校。

卒業生たちを前に、シェリル・サンドバーグが壇上に立ちました。

彼女は当時、世界的なIT企業FacebookのCOOを務めていました。

しかし、その日の講演で中心となったのは、華々しいキャリアの話ではありませんでした。

前年の2015年5月1日、彼女は夫のデイブ・ゴールドバーグを突然亡くしています。

夫を失ったあと、深い悲しみの中で日々を過ごしていた彼女は、あるとき友人のフィルに、夫が参加するはずだった子どもの行事について相談しました。

代わりの人を立てる方法を考えても、彼女が本当に望んでいたのは、夫自身がそこにいてくれることでした。

そんな彼女に、友人はこう伝えました。

Option A is not available.

「プランAはもう選べない」

そして、残されたプランBに全力で向き合おうと続けたのです。

探偵パンダが、望んだ未来を失ったときの現実、立ち直るまでの時間、後悔との向き合い方、残された希望について解説する図解。

この言葉を聞いて、あなたはどう感じるでしょうか。

確かに、失われた人生を取り戻すことはできません。

しかし、だからといって、すぐに別の人生を選べるものなのでしょうか。

私は、そんなに簡単な話ではないと思います。

そもそも、失ったものが大切であればあるほど、それを手放すことは難しいでしょう。

新しい人生を考えることすらできない時期もあるかもしれません。

それでも、時間は進んでいきます。

私たちは、望んでいたプランAが失われた世界で、生きていかなければならないのです。

前に進むことと、後悔することは矛盾しない

サンドバーグの言葉を聞いて、私が最初に考えたのは、過去との向き合い方でした。

よく、過去を振り返らずに前を向こうと言われることがあります。

しかし、私は必ずしもそうする必要はないと思っています。

過去を振り返ることは、そんなに悪いことなのでしょうか。

人生には、後悔する出来事がいくつもあるはずです。

あのとき、別の選択をしていればよかった。もっと違う言葉をかけていればよかった。なぜ、あんなことをしてしまったのだろう。

誰しも、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

でも、私は思うのです。

前に進むことと、後悔することは、決して矛盾しないのではないか。

後悔してもいいと思います。

過去を振り返ってもいい。間違いを犯してしまうことだってあるでしょう。

なぜなら、過去の経験も含めて、今の自分があるのだと思うからです。

もちろん、すべての経験に意味があるとまでは言い切れません。

経験しなくてもよかった苦しみもあるでしょうし、取り返しのつかない出来事もあります。

それでも、過去に起こったことを無理に忘れる必要はないと思います。

大切なのは、過去を消し去ることではなく、過去を抱えたまま、これからの人生をどう生きるのかということではないでしょうか。

例えば、過去の選択を後悔している人が、新しいことに挑戦したとします。

その人は、もう後悔していないのでしょうか。

そんなことはないでしょう。

後悔が残っていても、新しい道へ進むことはできるはずです。

過去を忘れることが前進なのではなく、過去を抱えながらも、自分なりの道を見つけていくことが前進なのだと思います。

「立ち直る力」は本当に鍛えられるのか?

サンドバーグは講演の中で、レジリエンスという言葉を紹介しています。

レジリエンスとは、困難に直面したあと、そこから立ち直り、適応していく力のことです。

彼女は、この力は生まれつき決まっているものではなく、筋肉のように育てていけると語りました。

困難に直面したときの「3つのP」

講演では、心理学者マーティン・セリグマンの研究に基づく考え方として、次の3つが紹介されています。

考え方意味
Personalization(自責化)悪い出来事を、何もかも自分のせいだと考える
Pervasiveness(全般化)一つの悪い出来事が、人生のすべてを悪くすると考える
Permanence(永続化)今の苦しみが、これからも永遠に続くと考える

例えば、仕事で大きな失敗をしたとします。

「自分がすべて悪い」「自分の人生はもう駄目だ」「これからもずっと失敗し続ける」

そう考えてしまうこともあるでしょう。

しかし、一つの失敗がその人のすべてを決めるわけではありません。

また、今感じている苦しみが、これからも同じ形で続くとは限らないのです。

この考え方には、納得できる部分があります。

ただ、私は一つ疑問を感じました。

苦しみを経験することで、人は強くなるのだろうか

そもそも、「立ち直る力」というものは本当にあるのでしょうか。

仮にあったとして、それを鍛えるとは、どういうことなのでしょう。

何度も失敗すればいいのでしょうか。何度も人生のどん底に落ちるような経験をすれば、強くなれるのでしょうか。

そんな経験を、進んで望む人はいないと思います。

確かに、苦しい経験を通じて成長することもあるかもしれません。

しかし、苦しみを経験した人が、必ず強くなるとは限らないでしょう。

苦しんだ結果、以前より傷つきやすくなることもあるかもしれません。

だから私は、「困難は人を強くする」と簡単に言い切ることには慎重でありたいと思っています。

ただ、一つ考えていることがあります。

人を立ち直らせるのは、苦しみそのものではなく、その後に過ごす時間や、そこで出会う人、積み重ねていく経験なのではないでしょうか。

ここでいう時間とは、単に時計の針が進むことではありません。

例えば、何気ない会話に救われることがあるかもしれません。

新しく出会った人との関係が、少しずつ考え方を変えてくれることもあるでしょう。

これまで知らなかった世界を知り、別の楽しみを見つけることだってあるはずです。

そうした経験を重ねるうちに、ある日、もう一度歩き始めようと思えることがあるのかもしれません。

それが1年後なのか、10年後なのかは分かりません。

人によっては、もっと時間が必要になることもあるでしょう。

時間が経てばすべてが解決する、と言いたいわけではありません。

それでも、これから出会う人や経験が、今は想像もできない支えになる可能性はあると思います。

だからこそ、立ち直るまでの時間を、他人が決めるべきではないのでしょう。

常に前を向く必要はない。でも、希望は忘れたくない

「前向きに生きよう」

私たちは、この言葉をさまざまな場面で耳にします。

落ち込んでいる人に対して、励ますつもりでかけられることもあるでしょう。

私は、この言葉そのものが悪いとは思いません。

誰かを元気づけたいという気持ちから生まれる言葉なのでしょう。

ただし、言葉の意味は、受け取る人や状況によって変わります。

ある人には励ましになる言葉が、別の人には負担になることもあるはずです。

だからこそ、言葉を発する側には、その言葉がどう届くのかを考える責任もあると思います。

後ろを向いたって、横を向いたっていい

私は、そもそも人間が常に前を向いて生きる必要はないと思っています。

ずっと希望に満ちていて、何が起きても前を向き続けられる。

そんな人は、どれほどいるのでしょうか。

少なくとも、それを誰にでも求めるのは難しいと思います。

後ろを向いたっていい。横を向いたっていい。立ち止まってもいい。

無理に前へ進もうとする必要はないのです。

けれど、私自身が忘れたくないものが一つあります。

それは、希望です。

ここでいう希望とは、いつか必ず成功するという確信ではありません。

明日は今日より少し良いことがあるかもしれない。

今は見つからなくても、自分に合った道がどこかにあるかもしれない。

そうした、小さな可能性を信じることです。

希望を持てないほど苦しい時期もあるでしょう。そのようなときまで、希望を持たなければならないと求めるつもりはありません。

それでも、再び歩き始めようと思えたとき、希望が自分の進む道を照らしてくれることはあると思います。

希望とは、常に前を向かせるものではなく、もう一度歩こうと思ったときに、道しるべになってくれるものなのかもしれません。

探偵パンダが、励ましの言葉の重さ、自分のペースで生きる大切さ、希望や周囲の支えについて解説する図解。

失ったものばかりではなく、残っているものにも目を向けたい

今回の講演で、もう一つ印象に残った部分があります。

サンドバーグは夫を失ったあと、仕事に戻ったときの経験を語っています。

会議に参加したある瞬間、ほんのわずかな時間だけ、夫の死から意識が離れたそうです。

そして、自分の人生には、まだ失われていないものがあることに気づきました。

子どもたちがいる。家族や友人が支えてくれている。

悲しみの中にいても、人生のすべてが失われたわけではなかったのです。

さらに、彼女は日々の生活で感謝できることや、喜びを感じた瞬間に目を向けるようになったと語っています。

私は、この考え方をとても大切にしたいと思いました。

『ONE PIECE』のある言葉を思い出した

ここで、個人的に思い出した漫画の場面があります。

尾田栄一郎さんの『ONE PIECE』です。

大切な兄であるエースを失い、深い悲しみの中にいるルフィに対して、ジンベエが言葉をかける場面があります。

失った物ばかり数えるな!!!

そしてジンベエは、まだ自分に残っているものは何か、とルフィに問いかけます。

出典:尾田栄一郎『ONE PIECE』第60巻・第590話「弟よ」(集英社)

探偵パンダが、喪失による悲しみと、家族や友人など今も残っている大切なものに目を向けることの重要性を解説する図解。

この場面が、私は好きです。

もちろん、失ったものを忘れろという話ではありません。

大切な人を失った悲しみは、そんな簡単に消えるものではないでしょう。

しかし、失ったものだけを見つめていると、今も自分のそばにある大切なものを見失ってしまうことがあるのかもしれません。

私たちは、悪い出来事に目を向けがちです。

誰かの失敗や欠点、悪い噂。

そして、自分自身についても、できなかったことや失敗したことばかり考えてしまうことがあります。

もちろん、問題から目をそらすべきだという意味ではありません。

ただ、悪いところを見るのと同じくらい、良いところにも目を向けることは大切ではないでしょうか。

今の自分に残されているものは何だろう。

支えてくれる人はいるだろうか。

今でも楽しめることはないだろうか。

これから新しく手に入れられるものは何だろうか。

そんなふうに考えてみることで、これまで見えていなかったものに気づくことがあるかもしれません。

失ったものを忘れる必要はない。ただ、失ったものだけで、これからの人生のすべてを決めなくてもいいのだと思います。

お金があることで、生まれる余裕もある

ここまで人生や心の持ち方について考えてきました。

しかし、今回のサンドバーグの講演で見逃せないのが、お金についての発言です。

彼女は、配偶者を失った家庭の中には、経済的に厳しい状況に置かれる人がいると語っています。

生活費を稼ぐために働かなければならず、子どもと過ごす時間すら十分に取れない人もいる。

一方で、自分には経済的な安定があり、必要なときに仕事を休める環境があったことも認めています。

この部分は、とても重要だと思います。

なぜなら、困難に立ち向かうためには、心の持ち方だけではどうにもならないことがあるからです。

お金は、人の心の余裕にも関係する

私は、お金はとても重要なものだと思っています。

もちろん、お金が人生のすべてではありません。

お金で買えないものもあるでしょう。

しかし、私たちが生活していくうえで、何をするにもお金が必要になる場面は多いものです。

食事をするにも、住む場所を確保するにも、病気になって治療を受けるにも、基本的にはお金がかかります。

私は、人は余裕があると、他人にも優しくなれることがあると思っています。

そして、その余裕の一部は、お金によってつくることができるのではないでしょうか。

例えば、仕事で心身が疲れ切ってしまったとき。

十分な貯蓄があれば、仕事を休むという選択肢を考えやすくなります。

転職を考えるときにも、生活費に余裕があれば、少し時間をかけて次の仕事を探せるでしょう。

反対に、生活費が足りなければ、どれほど苦しい状況でも働き続けなければならない場合があります。

そこには、本人の意思や努力だけでは埋められない差があると思います。

探偵パンダが、生活に必要なお金、貯蓄が生む時間の余裕、働き方の選択肢、資産形成の目的について解説する図解。

お金は、人生の選択肢を増やすためのもの

私は、お金を増やすこと自体が人生の目的になるべきだとは思っていません。

それよりも、お金によって何ができるようになるのかを大切にしたいと思っています。

例えば、経済的な余裕があることで得られるものには、次のようなものがあるでしょう。

  • 時間の余裕:休養する時間や、大切な人と過ごす時間を確保しやすくなる。
  • 仕事の選択肢:働き方や転職について、慌てず考えやすくなる。
  • 生活の安定:突然の出費や収入の減少に備えやすくなる。
  • 心の余裕:日々の生活費への不安を、ある程度軽減できる。

もちろん、お金があるからといって、必ず心に余裕が生まれるわけではありません。

莫大な財産を持っていても、孤独や不安を感じる人はいるでしょう。

それでも、選択肢を持てることには大きな意味があると思います。

私が資産形成を続ける理由にも、こうした考えがあります。

将来の生活を少しでも安定させ、自分の時間や働き方を選びやすくすること。

そのために、お金を備えておきたいのです。

そして今回の講演を聞いて、もう一つ考えました。

お金は、望んでいた人生を取り戻してくれるわけではない。でも、失ったあとの人生を考えるための余裕を与えてくれることはあるのではないでしょうか。

だからこそ、資産形成を考えるときにも、お金を増やすことと同じくらい、今の生活を守ることを大切にしたいと思います。

人にとって「最悪」とは何なのだろうか

今回の講演を通して、最後に一つ考えたことがあります。

それは、人にとって最悪の出来事とは何なのだろうか、ということです。

お金をすべて失うことでしょうか。

仕事で大きな失敗をすることでしょうか。

それとも、大切な人を失うことでしょうか。

もちろん、どれもつらい出来事だと思います。

しかし、人によって何が最も苦しいのかは違うはずです。

他人から見れば小さな出来事でも、その人にとっては人生を変えてしまうほど大きな問題かもしれません。

反対に、周囲が絶望的だと思う状況でも、本人はまだ何かの可能性を見つけていることもあるでしょう。

そう考えると、絶望の大きさを他人が簡単に決めることはできないのだと思います。

そして、私はこうも考えます。

人生には、どうしようもなくなったと思う出来事があるかもしれません。

しかし、その先に何も残っていないと、本当に言い切れるのでしょうか。

もちろん、失ったものが戻ってくるとは限りません。

努力しても変えられない現実はあります。

それでも、今の自分には見えていない道が、これから見つかることもあるのかもしれません。

サンドバーグは講演の終盤で、夫を失った深い悲しみは今も自分の中にあると語っています。

その一方で、日々の生活の中に喜びや感謝を見つけられるようになったとも話しています。

悲しみが消えたから、前へ進めたわけではありません。

悲しみがあることと、人生に喜びがあることは、両立するのです。

私は、その点が特に印象に残りました。

立ち直るとは、過去を忘れたり、悲しみを消したりすることではない。悲しみを抱えたままでも、もう一度、自分なりの人生を歩き始めることなのかもしれません。

そして、その道を歩く速さは、人それぞれでいいと思います。

無理に前を向く必要はありません。

ときには立ち止まり、過去を振り返ってもいいのでしょう。

それでも、もし再び歩き始めようと思えたなら、今も自分に残されているものに目を向けてみたい。

大切な人とのつながり。これからの出会い。今はまだ知らない楽しみや経験。

そして、明日は少し違う一日になるかもしれないという、小さな希望。

そんなものが、これからの人生を支えてくれるのかもしれません。

最後に、あなたにも問いかけたいと思います。

もし、あなたが思い描いていた人生のプランAを失ってしまったとしたら。

そのとき、あなたは何を大切にしながら、これからの人生を歩んでいきたいでしょうか。


あわせて読みたい|人生とお金を考える 第6回

David Foster Wallace「自分で選んだはずなのに、なぜ自由が減っていくのか?」

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人生には自分で変えられない状況もあります。しかし、その状況の中で何に目を向けるのかという問いは、今回のサンドバーグの講演ともつながっています。

違う角度から、人生の自由について考えてみてはいかがでしょうか。

▶ 第6回|David Foster Wallace「人生の自由を考える」を読む


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