Charlie Munger「幸せになる方法より、不幸になる方法を考える」|大きな成功のない人生は美しくないのか?

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探偵パンダ|人生とお金を考える 第2回

大きな成功のない人生は、つまらない人生なのだろうか

世の中には、成功するための方法があふれています。

もっと行動しよう。もっと挑戦しよう。失敗を恐れず、自分の可能性を信じよう。

確かに、何かを成し遂げた人の話には人を動かす力があります。大きな挑戦をして、大きな成功を収める。そんな人生には、誰もが一度くらい憧れるかもしれません。

けれど、少し違う角度から考えてみたいものです。

大きな成功を収めることなく、特別な成果を残すこともなく、それでも大きな失敗をせずに歩んできた人生。

そんな人生には、価値がないのでしょうか。

そうは思いません。

私自身、これまでの人生で大きな成功を収めたわけではありません。しかし、振り返ってみると、大きな失敗もそれほど経験してこなかったように思います。

それを誇らしい実績として語れるかと言われれば、少し難しいかもしれません。

それでも、大きな失敗を避けながら、目の前のことを一つずつ積み重ねていく。そんな生き方にも、しなやかさや美しさがあるのではないかと思うのです。

今回は、そんな考えに通じる一人の人物の言葉を取り上げます。

投資家として知られる、チャーリー・マンガーです。

83歳のマンガーが卒業生に伝えたこと

2007年5月13日、アメリカの南カリフォルニア大学(USC)。

当時83歳のチャーリー・マンガーは、法科大学院の卒業式でスピーチを行いました。

マンガーは、世界的な投資会社バークシャー・ハサウェイの副会長として、ウォーレン・バフェットと長年仕事をしてきた人物です。

投資の世界では著名な存在ですが、この日の講演は投資のテクニックを教えるものではありませんでした。

卒業を迎え、これから社会に出ていく若者たちに向けて、自分の人生で役に立った考え方を伝える講演だったのです。

そのなかで彼が取り上げたのが、「Inversion(逆から考えること)」という発想でした。

私たちは何かを達成したいとき、その目的に向かう方法を考えます。

幸せになりたければ、幸せになる方法を探す。成功したければ、成功する人の習慣を調べる。

しかし、マンガーは問いの向きを変えます。

「人生で失敗するのは、どのようなときなのか」

「避けなければならないものは何なのか」

目的地にたどり着く方法だけを探すのではなく、目的地にたどり着けなくなる原因を先に考えてみる。

これが、彼の大切にしていた思考法の一つです。

探偵パンダが解説する、チャーリー・マンガーの「逆から考える」思考法の図解。ふつうの考え方とマンガーの考え方を比較し、成功する方法より失敗する原因を避ける重要性を示している。

幸せになる方法より、不幸になる原因を考える

成功の条件は難しくても、失敗の原因は見つけやすい

幸せになる方法を一つ挙げてください。

そう聞かれたら、どう答えるでしょうか。

好きな仕事をすること。家族や友人と過ごすこと。経済的に豊かになること。自由な時間を手に入れること。

人によって答えは違うはずです。

それでは、反対に考えてみます。

不幸になりやすい行動には、どのようなものがあるでしょうか。

例えば、次のような行動が考えられます。

  • 自分の健康を長期間ないがしろにする
  • 周囲の人との約束を繰り返し破る
  • 収入を大きく超える支出を続ける
  • 自分の間違いを認めず、同じ失敗を繰り返す
  • 一時の感情で取り返しのつかない決断をする

もちろん、これらを避ければ必ず幸せになれるわけではありません。

それでも、人生を悪い方向へ進めてしまう可能性を減らすことはできるでしょう。

マンガーも講演のなかで、信頼を失う行動、嫉妬や恨み、自分に都合のよい思い込みなど、人生を難しくする要因を挙げています。

ここで私が興味深いと感じるのは、成功に必要な何かを増やすのではなく、失敗につながる何かを減らすという考え方です。

人生を良くすることは、何かを手に入れることだけではない。失わずに済むものを守ることでもある。

そんな見方もできるのではないでしょうか。

失敗には、取り返せるものと取り返せないものがある

ただし、「失敗を避ける」という言葉には注意が必要です。

なぜなら、失敗には学びもあるからです。

新しいことに挑戦してうまくいかなかった経験が、その後の人生に役立つこともあるでしょう。失敗がきっかけで自分の考えを改め、成長できる場合もあります。

それでは、失敗を恐れず挑戦するべきなのか。それとも、失敗を避けるべきなのでしょうか。

その違いを判断する基準はシンプルだと考えています。

その失敗から、立ち直ることができるのか。

これに尽きるのではないでしょうか。

例えば、新しい趣味に挑戦してうまくいかなかったとしても、失うものは比較的小さいかもしれません。自分に合わないと分かることも、一つの経験です。

仕事で思うような成果が出なかったとしても、改善して再挑戦できるなら、その経験には意味があるでしょう。

一方で、身体や心に深い傷を負う失敗はどうでしょうか。

たった一度の判断によって健康を大きく損ない、その後の生活が変わってしまうこともあります。精神的な傷によって、長く苦しみ続けることもあるでしょう。

「死ぬこと以外かすり傷」という言葉があります。

その言葉が、困難に立ち向かう勇気を与えてくれる場面もあると思います。

しかし、すべての失敗を、その一言で片づけることはできないとも感じます。

命があれば、必ず元どおりに戻れるわけではありません。

もちろん、深い傷を負っても、新たな人生を築いていく人はいます。だからこそ、他人の人生について「立ち直れない」と簡単に決めつけるべきではありません。

ただ、失敗から学べることがあるからといって、あえて深い傷を負う必要もないはずです。

挑戦そのものを否定したいのではありません。

大切なのは、失敗を恐れないことよりも、自分が引き受けるリスクを理解することなのではないでしょうか。

大きな成功がなくても、積み重ねられるものがある

目立たない積み重ねが、信頼になる

マンガーは講演で、信頼できない人間であることの問題を強く指摘しています。

いくら優秀でも、約束を守らず、周囲から信頼されなければ、その能力を長く生かすことは難しくなる。

この考えには、私も共感するところもあります。

ただし、信頼や誠実さがあれば必ず成功する、とまで言い切るつもりもありません。

世の中には、必ずしも誠実とは思えない方法で、大きな成果を収める人もいるでしょう。

特に短い期間だけを切り取れば、その人の内面が成功にどの程度関係しているのか、分からないこともあるとおもいます。

しかし、長い時間で考えるとどうでしょうか。

仕事で何度も協力し合う相手を選ぶとき、私たちは能力だけを見るでしょうか。

約束を守ってくれるか。自分の間違いを認められるか。困ったときにも誠実に対応してくれるか。

そうした部分も、大切になるはずです。

私は、長く第一線で活躍し続けるほど、その人の内面が重要になってくるのではないかと考えています。

もちろん、これはすべての成功者に当てはまる法則ではありません。

それでも、長い時間をかけて築かれる信頼には、一度きりの大きな成功とは異なる価値があると思います。

静かな人生にも、美しさがある

華々しい成果は、多くの人の目を引きます。

新しい事業で成功した人。大きな挑戦を成し遂げた人。短期間で莫大な富を手に入れた人。

そうした物語には、確かに魅力があります。

けれど、その陰には目立たない多くの人の人生があります。

毎日、仕事に向き合う。約束を守る。大きく生活を崩すことなく、少しずつ自分の暮らしを整える。

特別な出来事として語られることは少ないかもしれません。

しかし、その積み重ねがあるからこそ、周囲から信頼され、自分自身も安心して次の日を迎えられるのではないでしょうか。

大きな成功がないことと、何も積み重ねていないことは同じではありません。

失敗を避けながらコツコツと歩む道にも、しなやかさがあると思います。

派手ではないけれど、簡単には折れない。

そんな人生も、十分に美しいのではないでしょうか。

ただし、失敗を避けるだけで幸せになれるのか

ここまで考えてきて、一つの疑問が残ります。

失敗を避け続ければ、それだけで幸せになれるのでしょうか。

おそらく、そう単純な話ではないと思います。

例えば、失敗する可能性を避けるために、新しい人間関係を一切築かないとします。確かに、人間関係で傷つく機会は減るかもしれません。

しかし、その代わりに得られたはずの出会いや経験も失うでしょう。

仕事でも同じです。

失敗したくないからと、難しい仕事をすべて断れば、問題に直面する機会は減るかもしれません。しかし、成長する機会まで失ってしまう可能性があります。

そこで、先ほどの考えに戻ります。

立ち直れる失敗か、そうではない失敗か。

私が避けたいのは、すべての失敗ではありません。

その後の人生に深刻な影響を残し、立て直すことが難しくなるような失敗です。

反対に、失敗しても再挑戦できるのであれば、その経験を選ぶ価値は十分にあると思います。

また、そもそも人生には、自分の努力だけでは避けられない出来事もあります。

病気や事故、育った環境、社会の変化。どれほど慎重に行動しても、予想できない問題に直面することはあるでしょう。

マンガーのような成功者の言葉が、誰にでも同じように当てはまるとは限りません。

だからこそ、「失敗したのは、その人が避ける努力をしなかったからだ」と考えるのは違うはずです。

逆から考えることは、人生のすべてをコントロールするための方法ではなく、自分で選べる部分について、より良い判断をするための方法なのだと思います。

お金は「増やす・守る・使う」の3つで考えたい

ここまでの話は、お金との向き合い方にもつながります。

お金について考えるとき、多くの人は「どうすれば増やせるか」に関心を持つのではないでしょうか。

もっと収入を増やしたい。貯金を増やしたい。投資で資産を大きくしたい。

どれも大切なことです。

しかし、マンガーの考え方を取り入れるなら、別の問いも生まれます。

「どうすれば、お金に困る人生になってしまうのか」

例えば、収入が増えるたびに支出も増やしてしまう。返済できる見通しのない借金を重ねる。生活に必要なお金まで投資に回してしまう。

どれほど収入が多くても、これでは資産を築くことは難しいでしょう。

穴の空いたバケツに、いくら水を注いでも、なかなか水はたまりません。

私は、お金を増やすことと同じくらい、守ることも重要だと考えています。

ただし、それだけでは十分ではありません。

私が大切だと考えているのは、「増やす・守る・使う」の3つを適切に実行することです。

お金との向き合い方役割
増やす収入や資産を増やし、将来の選択肢を広げる
守る無理な支出や過大なリスクを避け、生活の土台を維持する
使う今の暮らしや経験、必要なものにお金を生かす

増やすことばかり考えて、現在の生活を楽しめなくなってしまう。

反対に、今のお金を使うことばかり考えて、将来の生活に不安を残してしまう。

あるいは、守ることに集中するあまり、必要なことにもお金を使えなくなる。

どれか一つに偏ってしまうと、お金が人生を豊かにするための手段ではなく、人生を縛るものになってしまうかもしれません。

お金は増やすためだけにあるのでも、失わないためだけにあるのでもない。自分の人生を豊かにするためにある。

だからこそ、増やす・守る・使う。

この3つのバランスを考え続けたいと思っています。

投資でも、立ち直れる失敗かを考える

投資においても同じことが言えるでしょう。

資産を増やすためには、ある程度のリスクを引き受ける必要があります。

しかし、一度の大きな損失で生活が成り立たなくなってしまえば、その後の資産形成にも深刻な影響が及びます。

私自身、投資では長期的な積み立てを基本としながら、追加投資の判断にも一定のルールを設けています。

相場が動くたびに感情だけで売買するのではなく、あらかじめ決めた方針をもとに判断するためです。

もちろん、ルールを設ければ損失がなくなるわけではありません。

それでも、少なくとも自分が何をしているのか分からないまま、大きなリスクを引き受けることは避けたいと考えています。

投資で重要なのは、単に大きな利益を得ることだけではないはずです。

失敗したとしても、その後の生活を立て直し、必要なら投資を続けられる状態を保つこと。

それも、長く資産形成を続けるための大切な条件だと思います。

人生は、大きく勝たなくてもいいのかもしれない

前回の記事では、ジェフ・ベゾスの「後悔」をめぐる考え方を取り上げました。

将来の自分が後悔しないために、今どのような選択をするのか。

それに対して、今回のマンガーは違う方向から人生を考えるきっかけを与えてくれました。

どうすれば成功できるのか、ではなく、どうすれば失敗してしまうのか。

一見すると、反対の考え方のようにも感じます。

しかし、両者は必ずしも矛盾しないと思います。

挑戦するべきときには挑戦する。その一方で、立ち直ることが難しいほどのリスクは避ける。

どちらも、より良い人生を選んでいくための考え方ではないでしょうか。

私自身、これまで大きな成功を収めてきたわけではありません。

これから先、何か大きなことを成し遂げられるのかも分かりません。

それでも、失敗を避けながら、信頼を積み重ね、自分なりに納得できる日々を送っていく。

そんな人生を、私は悪いものだとは思いません。

大きな成功を手に入れなければ、人生に価値がないわけではない。

むしろ、大きな失敗をせずに積み重ねてきた日々のなかに、その人にしかない価値があるのかもしれません。

成功した人の人生ばかりが注目される時代だからこそ、そんな静かな生き方にも目を向けてみたいのです。

あなたが人生で、どうしても避けたい失敗は何でしょうか。

そして、その失敗を避けながらも、挑戦してみたいことは何でしょうか。


あわせて読みたい|人生とお金を考える

Jeff Bezos「80歳の自分は後悔するか?」|人生を決めるのは才能ではなく選択なのか

今回取り上げたチャーリー・マンガーは、「失敗する原因を避ける」という考え方を教えてくれました。

一方、前回の主人公であるジェフ・ベゾスは、「80歳になった自分は、この選択を後悔するだろうか?」という問いを通して、人生の選択について考えるきっかけを与えてくれます。

失敗を避けることと、後悔しないために行動すること。

一見すると正反対にも思える2つの考え方ですが、どちらも自分が納得できる人生を歩むためのヒントになるのではないでしょうか。

▶ 第1回|Jeff Bezos「80歳の自分は後悔するか?」を読む

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