ここ10年、投資の「正解」は
「米国株を買っておけば大体なんとかなる」
という時代でした。
ところが、ゴールドマン・サックス(GS)、JPモルガン、ブラックロックといった
世界のトップ金融機関は、最新レポートの中でそろってこう示唆しています。
「次の10年、そのやり方のままでは苦しくなるかもしれない」
彼らは共通して
- 世界株式:年率7%前後
- 米国株:それ以下
- 非米国株・新興国株:米国を上回る可能性が高い
と予測しています。
本記事では、
- ゴールドマン・サックス / JPモルガン / ブラックロックの
10年リターン予測とマクロ見通し - そこから読み取れる
「米国一強の終わり」と「非米国のチャンス」 - そして私たちは実際にどうポートフォリオを見直すか
を、初心者にもわかりやすく・上級者にも読み応えがあるレベルで整理していきます。
この記事でわかること
- 3大金融機関が共通している「ソフトランディング&AIブーム」シナリオ
- 今後10年、米国株より非米国株が有利とされる理由
- ゴールドマンが「株より債券有利」とまで言う背景
- ドル安・円高シナリオの下で、日本人投資家の米国株リターンがどう削られるか
- 日本株・新興国株・債券・金・オルタナをどう組み合わせるかの考え方
1. 今、なぜ「10年リターン予測」を真剣に見るべきか
2010年代は
- 低インフレ・低金利
- グローバル化の追い風
- GAFAをはじめとする米大型ハイテクの絶対王者ぶり
によって、
「米国株に長期投資しておけばOK」というシンプルな戦略が機能してきました。
しかし、2020年代の世界は大きく変わっています。
- インフレ再燃と金利の高止まり
- 米中対立・ウクライナ戦争/台湾有事問題などの地政学リスク
- サプライチェーン再構築
- そして何より、AI(人工知能)を中心とする巨大な設備投資サイクル
3社の長期予測レポートは、こうした「新しい環境」のもとで
“これからの10年”の前提をアップデートせよと伝えているのではないでしょうか。
2. 共通シナリオ:ソフトランディング+AIブーム
細部は異なるものの、マクロの土台となるシナリオはかなり似ています。
景気:リセッション回避の「ソフトランディング」前提
- 米国は景気後退は避けつつ、成長はやや鈍化
- インフレはピークアウト済みだが、コロナ前よりはやや高めの水準で安定
- 各国中銀は「急ブレーキ」ではなく、ゆるやかな利下げ・政策の微調整
「2026年初頭、減税・還付金などで一時的に景気・インフレが再加速 。
その後、関税・移民減少の影響で成長鈍化・インフレ沈静化」
という想定しています。
「AIによる生産性押し上げで、米国の潜在成長率は2030年代にかけて上向く」
としながらも、景気後退なきインフレ抑制(ソフトランディング)をベースケースにしています。
AI投資を成長の柱としつつ、
その過程でボラティリティの高まり(急落・急騰の繰り返し)に注意を促しています。
3. 今後10年の株式リターン予測

| 機関 | 指数・地域 | 予想年率リターン(10年) | コメント |
|---|---|---|---|
| GS | 世界株(MSCI ACWI) | 7.7% | 過去20年平均並みだが、80年代以降の平均より低め |
| S&P500(米国) | 6.5% | 主要地域で最も低い。高バリュエーションが逆風 | |
| 新興国株 | 10.9% | 最も高いリターン予測。名目成長・AI投資・構造改革が追い風 | |
| アジア(日本除く) | 10.3% | 中国・インド・北アジアの成長を反映 | |
| 日本株 | 8.2% | コーポレートガバナンス改革・株主還元の改善を評価 | |
| 欧州株 | 7.1% | 配当・自社株買い中心の「インカム+少し成長」型 | |
| JPM | ACWI(グローバル) | 6.7%前後 | GSよりやや保守的。マージン縮小・バリュエーション調整を織り込む |
| 米大型株 | 6.7% | バリュエーション要因がリターンを削ると想定 | |
| 非米先進国(EAFE) | 7%台前半 | 米国より高い。地域分散の重要性を強調 | |
| 新興国株 | 7〜8%台 | 高成長+割安バリュエーション | |
| BlackRock | MSCI USA | 約6.2% | 3社の中で最も低い米国株予測 |
| MSCI World ex US | 約8.0% | 非米国先進国が米国を明確に上回る予測 |
ポイントを一言でまとめると、

「世界全体はそこそこ取れる。
ただし、米国株は“そこそこ以下”、非米国株・新興国株は“そこそこ以上”」
4. なぜ米国株が「一番しんどい市場」なのか
3社とも米国株を悲観しているわけではありませんが、
「他地域よりリターンは劣後するだろう」という点ではほぼ一致しています。
理由は大きく3つです。
4-1. 歴史的に見ても高すぎるバリュエーション
ゴールドマンの試算では、
- S&P500の予想PER:約23倍
- CAPEレシオ(景気循環調整後PER):過去90〜97%タイルの高水準
となっており、
「将来の成長をかなり前倒しで織り込んでいる」状態です。
- EPS成長:+6%
- バリュエーション縮小:▲1%
- 配当利回り:+1.4%→ 合計:約6.5%
つまり
「利益は伸びるが、PERが少し下がるのでトータルはそれほど伸びない」
という構造です。
4-2. 「マグニフィセント7」への極端な集中
S&P500のリターンは、ここ数年
- Apple / Microsoft / NVIDIA / Amazon / Meta / Tesla 等
ごく一部の巨大ハイテクに強く依存してきました。
GSも
「次の10年で最も良いリターンが出るのは、米国市場全体ではなく、
米国外、そして米国内でも“マグ7以外”の可能性が高い」
と明言しています。
4-3. 利益率・税制・金利の「追い風」が一巡
- 低金利
- 減税
- グローバルなサプライチェーン最適化
といった、過去10年の利益率押し上げ要因は、
今後10年は同じようには効きにくいと見ています。
JPモルガンは逆に、こうした追い風の剥落を
「マージン縮小(-0.6%)+バリュエーション収縮(-1.4%)」という形で明示的にマイナス要因に入れています。
5. 非米国市場に広がる「次の10年の成長エンジン」

では、どこにチャンスがあるのか。
3社の共通見解をざっくり整理すると、こうなります。
5-1. 新興国・アジア:最も高い成長ポテンシャル
ゴールドマンの予測では、
新興国株:10.9%、アジア(日本除く):10.3%と、
全地域の中で最も高いリターンが見込まれています。
背景として…
- インド:
- 若い人口構成(35歳未満が約2/3)
- デジタル決済インフラ(UPI)などの「制度としてのDX」
- 台湾・韓国:
- 半導体・AIサーバーなど、AIサプライチェーンのど真ん中
- 中国:
- 米国の輸出規制に対抗するため、
国内でAIインフラ投資を急拡大
- 米国の輸出規制に対抗するため、
といった構造的な成長テーマが、
EPS成長率(年率10%前後)を押し上げると見られています。
5-2. 日本:企業統治改革が生む「再評価余地」
日本株の10年リターンを8.2%と見積もり、
米国や欧州よりも高い位置づけにしています。
理由の中心は「企業統治改革」です。
- 東証による「PBR1倍割れ企業への改善要請」
- 自社株買い・増配の増加
- 持ち合い株や遊休資産の解消
など、資本効率を高める動きが政策+市場の圧力で続きやすい構造になりました。
5-3. 欧州:爆発的成長ではなく「安定インカム枠」
欧州株の予測リターンは7%前後。
そのうち約半分が
- 配当利回り(約3%)
- 自社株買い(0.5%前後)
といった「株主還元」から来るとGSは分析しています。
- 高成長を狙う枠ではなく、ポートフォリオ全体の“堅実な土台”を作る枠
として位置付けるとバランスが取りやすいエリアです。
6. 「株より債券有利」とまで言う理由
ゴールドマンのレポートで最も衝撃的なのは、
「今後10年で、株式が債券に負ける確率は72%」
という試算かもしれません。
背景には、2つの変化があります。
6-1. 債券が「やっとまともに利回りをくれる」時代に戻った
- 米10年国債:将来の均衡利回りは約4.5%と想定
- 期待インフレを差し引いても、実質利回りはプラス
つまり、
「大きなリスクを取らなくても、4〜5%程度の利回りが手に入る」
という、債券の“普通においしい”時代が戻りつつあるわけです。
一方、株式側は
- リスクフリーレート上昇で、株式リスクプレミアムが低下
- バリュエーションも高止まり
→ 「リスクを取った割には、債券との差が小さい」
という状態になってきています。
7. 為替(ドル安・円高)と日本人投資家への影響
ここからが日本人投資家にとって一番重要なポイントです。
3社の前提には共通して
「今後10年、米ドルはやや割高圏からじわじわと調整(=ドル安)」
という見方があります。
仮に、
- ドル円:150円 → 100円まで10年で円高(=ドル約▲33%)
とすると、
- 為替要因の年率換算:約▲3.9%/年
- 米国株のドル建てリターン:6.5%/年とすると
→ 円建てでは 約2.51~2.7%/年 程度に低下
というイメージになります。
つまり、
「予想6.5%」のつもりで米国株に投資しても、
為替の逆風で円建てリターンは2〜3%になる可能性がある」
ということです。
一方で、
主要金融機関の予測では、
- 日本株:8〜9%/年(円建て)
- 新興国株:10%前後(現地通貨+為替上昇の恩恵が乗る可能性)
といった見通しが示されています。
ドル安は構造的に、
✔ 日本株の資金流入を促す
✔ 新興国通貨の上昇を後押し
✔ 米国一強から「世界循環相場」への転換を生みやすい
という影響があります。
8. 日本人投資家のための「戦略的アセットアロケーション」の例

ここからは、あくまで考え方の一例です。
(※特定割合を推奨するものではありません)
8-1. 米国株一極からの“脱・偏り”
3社の見通しと為替を踏まえると、
次のようなイメージが妥当そうです。
- これまで:
- 米国株 50〜70%
- 日本株・新興国・欧州・金ほぼなし
- これから(例):
- 米国株:30%前後
- 日本株:20〜30%
- 新興国株:15〜20%
- 欧州株:5〜10%
- 債券:20〜30%(うち一部は新興国債・社債等)
- 金:5〜10%
ポイントは、
- 「米国株をゼロにする」のではなく
→ “ACWI比よりやや少なめ”くらいに落とす - その分を
→ 日本・新興国・欧州・債券・金 に振り向ける
というバランス調整です。
8-2. 為替ヘッジの使いどころ
- 米国株:
→ 長期で「ドル安」と見てヘッジありを使うのも一案
(ただしヘッジコストが年1%前後だと、
元のリターンが低いと実質リターンが削られすぎるリスクも) - 新興国・欧州:
→ 基本は無ヘッジで、
「現地通貨の成長」も取りに行く考え方もアリ
9. 「年率6%は低い?」——投資の時間軸が評価を変える
最後に、「10年リターン6%前後」をどう評価するか、です。
- 年率6%の複利 → 30年で約5.7倍
- インフレ2%とすると、実質リターンは4%前後
これは、老後資金づくりとしては十分に強力な数字です。

「10年で大儲け」よりも、
「30年かけてコツコツ“負けない”設計」
の方が、再現性の高い戦略だと考えた方が気が楽だと思います。
11. まとめ:予測は外れる。その前提で「負けにくい形」を作る
ここまでのポイントをぎゅっとまとめると…
- 3社とも
→ 「世界全体は年7%前後、米国はそれ以下」
→ 「非米国・新興国・日本の方が有利」 - ゴールドマンは
→ 「今後10年、株が債券に負ける確率72%」とまで試算 - 為替まで含めると、
→ 日本人投資家の米国株リターンはさらに削られる可能性 - だからこそ、
- 米国株一極からの脱却
- 日本株・新興国・欧州・債券・金を組み合わせた
「真の意味での分散」
という地味だが強い戦略が、
次の10年を乗り切るうえでのベースになります。
予測はあくまでも予想です。
どんな未来が来ても致命傷を避けるための最善の、ポートフォリオを組むことが大切
3社のレポートを読み解くと、
最終的にはそんなメッセージに行き着くと感じています。
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