債券市場の“異変”──株の足元をすくう影が忍び寄る?
『探偵パンダの相場推理ノート』とは?
市場の裏側に潜む“違和感”を出発点に、仮説と推理を交えて相場の本質に迫るシリーズ。
正解を語るのではなく、一緒に考える時間を大切にする読み物形式の記事です。
「金利?債券?…気づけば、相場の空気が変わっていた。」
「株だけ見てたら危ないかも──」
S&P500が1.6%、ナスダックが1.4%、ダウは1.9%も下落。
いわゆる「ディストリビューションデー(機関投資家の売りが優勢な日)」が出現し、市場に黄色信号が灯った格好です。
その背景には、税制歳出法案による財政赤字の急拡大懸念がありました。
でも、もうひとつ──もっと“じわじわくるリスク”がありました。
「本当に危ないのは、“債券市場の異変”かもしれない」
株価が下がった理由は、財政不安だけじゃなさそうです。
むしろ注目すべきは、米国債市場の異常な動きです。
5月中旬に行われた20年債の入札では、買い手が集まらず、高利回りを提示せざるを得ない事態に。
その結果──
米10年債利回りは4.48% → 4.6%へ急上昇。
30年債利回りは、ついに5%を突破しました(2023年10月以来の水準です)。
「米国債市場は“過敏”になっている。こんなときに株を買うべきではない。」
これは、単なる投資家の感覚論ではありません。
機関投資家の多くは、長期金利の急騰をトリガーに、自動で株の保有比率を減らすアルゴリズムを設定しています。
つまり、“金利上昇”は“株の売り圧力”に直結する構造なのです。
ムーディーズの格下げが影響か?
これらの背景には間違いなくムーディーズによる米国債の格下げ(Aaa → Aa1)があるでしょう。
発表直後は以外にも市場はほとんど反応を示しませんでした。
しかし、徐々に綻びが生じだしているのかもしれません。
あれだけ歴史的な判断だったのに、相場は意外なほど静かでした。
ムーディーズは何を問題視したのか?
ムーディーズが示した主な懸念点を、以下に簡潔にまとめます。
- 「米国の政府債務と利払いの比率は、同じ格付けの他国と比べて著しく高い。過去10年以上にわたり、政府は歳出の増加と税収の減少を背景に、巨額の財政赤字を拡大させてきた。」
- 「義務的支出と金利負担は今後ますます重くなり、2024年時点で支出の73%を占めているが、2035年には78%にまで達する見込みである。」
- 「金利の上昇により、利払いコストは急増しており、2021年に歳入の9%だった利払いは2024年に18%、2035年には30%近くに拡大する恐れがある。」
- 「財政再建に向けた抜本的な措置への合意が政治的に難しい状況が続いており、今後も長期的な赤字と債務増加が予想される。」
- 政府債務と利払いの負担が大きすぎる
→ 歳出は増え、税収は伸び悩み。借金の返済に苦しむ姿が浮かびます。 - 利払いがどんどん膨らんでいる
→ 2021年には歳入の9%だったのに、
2024年には18%、そして2035年にはなんと30%近くになる可能性まで示されました。 - 財政の柔軟性が失われつつある
→ 使い道が決まっているお金(義務的支出)が、予算のほとんどを占めているのです。
2024年で73%、2035年には78%になる見込みだとか。 - 政治的な合意の困難さ
→ 歳出削減も増税も合意できないまま、時間だけが過ぎていく──
これが最大の問題かもしれません。
ムーディーズは、これらを踏まえて「さすがにAaaは維持できない」と判断したのでしょう。
その一方で「見通しは安定的」と評価しています。
- 「米国経済は非常に大きな規模、豊かな所得水準、高い成長可能性、そして生産性を支える革新性を備えている。」
- 「独立したFRBを中心とした、極めて効果的な金融政策の歴史があり、経済・金融の安定性を確保する制度的な強靭さが存在している。」
- 「政府の三権分立や法の支配など、制度面の強さもあり、短期的な政策の揺らぎに対して耐性があると見ている。」
つまり、ムーディーズとしても「財政はやばい。でも、米国全体がやばいわけではない」と見ているのではないでしょうか。
「私たちは今、どんな“入り口”に立っているのか?」
ムーディーズは、格下げと同時に「見通しは安定的」と評価しています。
確かに、米国経済の規模、成長性、制度の強靭さは健在です。
だからといって、財政リスクが解消されたわけではありません。
この格下げは、そうした「静かな破綻の予兆」を市場に示したに過ぎないのかもしれません。
こうした状況下だと「ドルだけに賭ける構造」に少しずつ不安を感じはじめる人もいるでしょう。
そういった方は、たとえば──
- ゴールド(長期の信用避難先)
- グローバル株(地域分散の鍵)
- 他通貨建て債券
- そして、ビットコイン(極少額の分散先)
「ドルしかない」ではなく、「ドル“以外”もある」。
そんな視点が、これからの相場ではますます重要になる気がします。
いまはまだ、市場は静かです。
でもこの“静けさ”が、信頼の強さによるものか、
それとも鈍感さや油断によるものかは、もう少し時間が経たなければ分かりません。
もしかしたら、この格下げは将来「最初のヒビ」として振り返られるのかもしれません。
※この記事は、探偵パンダによる“ひとつの仮説”にすぎません。
正解は誰にもわかりません。一緒に「考える」時間を楽しんでいただければ嬉しいです。
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