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『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』 昔話×ミステリーの第3弾、奇想天外な世界観で読者を魅了

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書評

青柳碧人氏による「昔話シリーズ」の完結編。昔話の世界観とミステリーを融合させた5つの短編が、読者を幻想的かつスリリングな世界へと誘います。

【書籍情報】

タイトル:むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。
著者:青柳 碧人
発行日:2023/8/9
ページ数:293頁

書評

独特の世界観と奇想天外な展開

本作は5つの短編で構成されています。

・こぶとり奇湘
・陰陽師、耳なし芳一に出会う
・女か、雀か、虎か
・三年安楽椅子太郎
・金太郎城殺人事件

昔話シリーズの第3弾となる本作は、前2作で確立された世界観を踏襲しつつ、新たな昔話の要素を取り入れています。3作目ということもあり、やや目新しさには欠けますが、それぞれの物語で展開される奇想天外な設定や展開は健在です。

プロット構成とミステリー要素

ミステリーのトリックに関しては凝った仕掛けが多く、読者を楽しませる要素が豊富です。しかし、全体的に物語の結末は余白を残す形で終わることが多く、この点については読者の好みが分かれる可能性があります。

昔話ならではの設定を活かし、現実離れした要素をふんだんに盛り込んだ展開は、他のミステリー作品では味わうことのできない独特の魅力があります。その反面、読者が自ら推理を進めることは非常に難しくなっています。本格ミステリーとは一線を画す作品であり、ちょっとした隙間時間に楽しむのがおすすめです。

印象的な短編たち

『三年安楽椅子太郎』と『金太郎城殺人事件』

個人的におすすめの話は「三年安楽椅子太郎」「金太郎城殺人事件」の2つの短編です。これらは時間軸がつながっており、2部構成となっています。

「金太郎城殺人事件」は、アガサ・クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」へのオマージュが感じられる展開です。金太郎城に集められた10人が次々と殺されていく様子が描かれますが、主人公的な役割の『なえ』という12歳の女の子のおしゃべりでおっちょこちょいな性格が物語に独特の味わいを加えています。不穏な空気漂う展開の中、最後は意外な形で幕を閉じる、いわばミステリーならぬ「ミス、テリー」作品となっています。

『女か、雀か、虎か』

「女か、雀か、虎か」は舌切り雀の昔話をモチーフにした作品です。この短編の面白さは、パラレルワールド(並行世界)の結末をそれぞれ描いているところにあります。「もし別の選択をしていたら」という誰もが一度は考えたことのある問いに答える形で、複数の世界線が描かれています。雀から渡される3つのつづらのうち、どれを選べば最適な結果が得られるのか。読者自身も考えながら楽しむことができる仕掛けになっています。

考察・感想

昔話という誰もが知っている物語を基に、全く新しい世界観とストーリーは圧巻です。

特に印象に残ったのは、各短編に散りばめられた現代的な要素とのコントラストです。

また、「女か、雀か、虎か」の複数の結末を提示する手法は、読者に「選択」の重要性を考えさせる仕掛けとして非常に面白いものでした。日常生活でも、「あの時こうしていれば…」と考えることは多々ありますが、この作品はそんな人間の本質的な思考をうまく物語に取り入れています。

本作は昔話とミステリーという一見かけ離れたジャンルを見事に融合させ、独自の世界観を作り上げた作品だと言えるでしょう。ミステリーファンはもちろん、新しい物語の形を求める読者にもぜひ手に取っていただきたい一冊です。

3部作となっていますがどれから読んでも楽しめる作品となっています。個人的には2作目がおすすめです。

総評

昔話とミステリーの融合という独創的なコンセプトは健在ですが、シリーズ3作目ということもあり、新鮮味にやや欠ける部分も見られます。しかし、奇想天外な設定と展開は依然として魅力的で、ミステリーファンだけでなく、ファンタジーや昔話に興味のある読者にもおすすめの一冊です。青柳碧人氏の豊かな想像力と巧みな物語構成力が光る作品集として、多くの読者の心に残ることでしょう。

レビュー

ミステリー要素  3.0
世界観      4.0
物語展開     2.5
総合評価     3.0

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