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昔話の世界に潜む闇 – 『むかしむかしあるところに死体がありました。』書評

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書評

童話の世界に殺人事件が起きたら——。懐かしい昔話の設定を巧みに利用しながら、スリリングなミステリーを展開する本作品は、読者の想像力を刺激し、新たな物語体験を提供します。

【書籍情報】

タイトル:むかしむかしあるところに死体がありました。
著者:青柳碧人
発行日:2019/4/21
ページ数:243頁

【各ストーリの展開とミステリー要素】

  • 一寸法師の不在証明:一寸法師のアリバイを崩していく物語。魔法のアイテム打ち出の小槌を使用して死亡推定時刻をずらすアリバイトリックが見どころ。
  • 花咲か死者伝言:お爺さんが残したダイイングメッセージの謎を解き、殺人犯を見つける物語。
  • 鶴の倒叙返し:主人公の弥兵衛が庄屋を殺すところから始まる倒叙ミステリー。不思議な道具の力を使って完全犯罪に挑む。
  • 密室竜宮城:竜宮城で起きた密室殺人事件。浦島太郎が事件の真相に迫る。
  • 絶海の鬼ヶ島:桃太郎が鬼退治をしてから数十年後の鬼ヶ島が舞台。次々と鬼が殺される中、殺人鬼の正体に迫るクローズドサークルの物語。

【書評】

本作品は昔話の設定を残しつつ、そこから始まるIFストーリーによるミステリー小説です。話の大本は昔話ですが、しっかりとした殺人ミステリーに仕上がっています。

五つの短編からなる本作品は、「一寸法師」「花咲かじいさん」「鶴の恩返し」「浦島太郎」「桃太郎」をモチーフにしています。各話では、昔話特有の非現実的な要素(魔法のような現象)が巧みにミステリー要素と融合し、独特の物語世界を構築しています。

魅力的な世界観

昔話は基本的にハッピーエンドで終わるのがセオリーですが、本作品は一味違います。必ず「殺人」が起きるのです。昔話の中で善人として描かれていた人物も、視点や環境が変わることで悪人に変貌していきます。固定概念を捨てて読むことをお勧めします。

多彩なトリック

五つの短編ながら、作中に使用されるミステリーのトリックや設定は多彩で、読者を飽きさせません。昔話がモチーフということもあり、登場人物は人間だけでなく、動物や鬼なども登場します。このユニークな設定自体がトリックに用いられる場面もあり、作品の魅力を高めています。

感想・考察

昔話×ミステリーという一見ミスマッチな組み合わせですが、本作品はその融合を見事に成功させています。

本作品の最大の見どころは「不思議な力の活用」です。物語には打ち出の小槌や、天狗鍬、花を咲かせる魔法の灰などの道具、竜宮城などの不思議な場所が登場します。これらの超自然的要素にも明確なルールが設定されており(例:打ち出の小槌は自分に対しては使用できないなど)、そのルールをトリックに巧みに組み込むことで、ファンタジーとリアリティのバランスを保っています。

特筆すべきは、昔話をダークな視点から再解釈している点です。暴力、裏切り、欲望、策謀といった負の要素を織り込むことで、読者に新鮮な驚きと独特の味わいを提供しています。

個人的に印象に残ったのは「一寸法師の不在証明」のトリックと、「鶴の倒叙返し」のストーリー構成です。特に後者は、倒叙ミステリーの形式を取りながら巧妙な陳述トリックを仕掛けており、読後の驚きが印象的でした。

総評

『むかしむかしあるところに死体がありました。』は、昔話とミステリーの意外な組み合わせを通じて、新しい物語体験を提供してくれます。馴染みのある設定に隠された意外性、緻密に練られたトリック、そして読者の想像力を刺激する展開が魅力的です。昔話の新たな解釈を楽しみたい方、独創的なミステリーを求める方に、ぜひ一読をお勧めします。

レビュー

ミステリー要素  4.5
世界観      4.0
物語展開     3.0
総合評価     4.5

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