本格ミステリー作家・阿津川辰海による作品集『午後のチャイムが鳴るまでは』は、九十九ヶ丘高校の昼休み65分間に起きる事件や謎を、5つのエピソードで描いた学園ミステリーです。
一見くだらないような出来事の中に、作者の緻密な伏線が隠されています。本気で馬鹿なことに取り組む高校生たちの姿は、おどけているようでいて、じつは真剣そのもの。
彼らの行動に共感し、謎に愕然とし、最後は感動のフィナーレ。青春の懐かしい香りと本格ミステリーの面白さが融合した、作品です。
あの頃の自分を思い出し、笑いと驚きと感動を味わってみませんか。
今回は、この阿津川辰海の傑作学園ミステリー『午後のチャイムが鳴るまでは』の書評、感想を書いていきます。青春時代を彷彿とさせる高校生たちの姿と、緻密に仕掛けられたミステリーの展開をお楽しみください。
あらすじ
本格ミステリー大賞作家、阿津川辰海氏による学園ミステリー作品。九十九ヶ丘高校で学園生活を送る学生たちの昼休憩(65分)という限られた時間に起こる事件や謎を描いた群像劇。青春の真っ只中を行く高校生たちによる馬鹿馬鹿しくも本人たちはいたって真面目な出来事が描かれています。物語の中での謎と作者が仕掛けたトリックが見事に融合しています。
書評
この作品は、九十九ヶ丘高校の昼休み65分間という限られた時間の中で展開する、全5つのエピソードから構成された学園ミステリーです。
各エピソードの主人公が異なり、独立したストーリーとなっていますが、全て高校生活の一コマを切り取った日常的な出来事から始まります。しかしその些細な出来事が、次第にミステリアスな事件へと発展していくのが見どころの一つです。
65分間という制限された時間の中で展開されるストーリーは、たいへんテンポが良く進行します。次から次へと起こる驚きの展開に、読者はハラハラドキドキの面白さを堪能できるでしょう。
さらに各エピソードに、作者によるさまざまな伏線が緻密に張り巡らされています。そしてそれらの伏線が、見事に最終章のストーリーの中で回収されていく構成は、まさに圧巻の秀作といえます。
作中に登場する人物が多いため、名前を覚えるのが若干難しい面はあります。しかしそれ以上に、馬鹿げた行動に走りながらも真剣に向き合う高校生たちの姿に、読者は笑いと共に大きな感動を覚えることでしょう。
馬鹿なことに一生懸命取り組む彼らの純真な姿は、誰もが高校生時代に経験したことがあるはずです。青春時代の懐かしさと面白さが凝縮された、見逃せない一冊と言えるでしょう。
個人的な意見と感想
馬鹿げた行動に見えても、本人たち高校生からすれば本気なのです。他人から見れば馬鹿馬鹿しいことでも、当事者にとってはいたって真剣なことなのです。大なり小なり、このような経験は誰もが学生時代にしたことがあるはずです。
作中の高校生たちの姿に、私も自身の学園生活を重ね合わせ、懐かしい気持ちになりました。彼らの純真な行動に釘付けになる一方で、あの頃の自分の姿を思い出し、つい恥ずかしくなったりもしました。
年を重ねれば重ねるほど、こうしたくだらないことに一生懸命になれる機会は減っていきます。大人になった今から見れば、くだらないことに全力で取り組む学生たちの姿は、些か滑稽で可笑しく映るかもしれません。しかし同時に、彼らの真剣な眼差しに心打たれ、よしずをくれた青春の日々に思いを馳せずにはいられません。
本作を読んでいる間、高校生たちの行動に笑ったり感動したりと、読後感は複雑に入り交じりました。そこにこそ、この作品の魅力と面白さがあるのだと思います。くだらなさと真剣さ、日常と非日常が見事に調和した傑作と言えるでしょう。
総評
本作品の最大の魅力は、ミステリー性の高さと青春の懐かしさを同時に堪能できる点にあります。
限られた時間の中でテンポよく展開するストーリーは、次々と起こる驚きの展開でハラハラドキドキの面白さを提供してくれます。さらに見事に散りばめられた伏線が最終章で回収されていく緻密な構成は、まさに本格ミステリーの傑作といえるでしょう。
一方で、馬鹿げた行動に走りながらも真剣に向き合う高校生たちの姿に、誰もが共感し懐かしさを覚えることでしょう。彼らの純真な姿は滑稽で可笑しくもあり、そこに青春の醍醐味を感じさせてくれます。
ミステリーの面白さと青春の懐かしさが見事に融合した、まさに魅力的な一冊と言えます。本作を読めば、きっと誰もが「あの頃を思い出す」とともに、笑いと驚き、そして大きな感動を味わえるはずです。
本格ミステリーとしての緻密な作り込みはもちろん、青春時代への大きな愛情が込められたこの作品は、阿津川辰海という作家の高い力量を改めて実感させてくれます。ぜひ一読をお薦めしたい、見逃せない作品です。
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