女性小説家同士の嫉妬と愛憎が渦巻く深淵を描いた衝撃作。才能と狂気のはざまで揺れる人間ドラマに酔いしれる。
書評
主要な登場人物
東山冴理:
主人公。若くして小説家デビューを果たし人気作家となるが、突然筆を折る。
30年の時を経て、過去の真実を語り始める。
白川天音
冴理の高校文芸部の後輩。天才小説家として注目を浴びるが、亡くなる。
物語の後半で彼女の手記が登場し、彼女の視点からの物語が明らかにされていく。
謎の編集者
30年の時を経て、冴理のもとを訪れ執筆を依頼。
書評 [華やかな文壇の裏側に潜む「女の狂気」]
小説家の東山冴理と後輩の天才作家・白川天音の嫉妬と愛憎に満ちた物語。
前半は冴理の回想、後半は天音の手記と、お互いの立場から描かれることで、読者の天音への印象が大きく変わるのが特徴的。
作品の魅力は、登場人物たちの入り組んだ心情描写にある。
憎しみ、愛情、嫉妬、憧れ、狂気など、複雑に絡み合う感情がリアルに描かれており、心を深く揺さぶられる。
登場人物一人ひとりが丁寧に描かれ、発言の意図、解釈の違いが人間関係に亀裂を生むさまは見事である。
一方で、物語の展開は一部予測しやすい部分もある。
謎めいた編集者やSNS上のファンの正体などは、ある程度容易に想像可能である。
しかし、この作品の最大の魅力は、やはり登場人物の心の機微を徹底的に掘り下げた心理描写にあると思う。
才能と嫉妬をめぐる2人の女性作家の物語は、希望と絶望の狭間で揺れ動く人間の醜く尊い一面を冷徹に映し出している。
読了後、タイトル意味に驚くこと間違いなし。
感想・考察
「神に愛されていた」は、思いを言葉にできなかった2人の小説家の”すれ違い”から起きた悲劇を描いた物語です。
言葉にしても伝わらないことがあり、思いをしっかり伝える大切さを教えてくれる作品です。
本作の核心は、幸せとは何かを問うものではないでしょうか。
人は幸せと不幸を感じ続ける生き物です。しかし何を幸せと捉えるかは人それぞれ違う。
登場人物たちも自身の幸せを必死に求めていました。
しかし、“足るを知る“という言葉があるように、追い求めることばかりするのではなく、日常の些細なことに幸せを感じることも重要なのではないでしょうか。
また、“誰かに愛されている“ということの意味や影響は大きく、幸福感や生きる意欲にも影響を与るものではないでしょうか。
登場人物はみな誰かに愛されていたと思います。
しかしその事実に気づかなかった・・・
愛されていることを知るか知らないかで人生は大きく変わる。
身近な者から愛されていることに気づくことが幸せへの第一歩なのかもしれません。
‐小説家という職業‐
作品の最後で小説のタイトルが”神に愛されていた”に決まる場面は感動的です。
この作品そのものが主人公が書いた小説と解釈できます。
光と闇、希望と絶望、愛と憎しみといった対となる要素が作中に散りばめられていました。
小説を執筆するということは、作家自身の人生そのものを反映し、経験や感情、それがたとえ負のものでああっても、エンターテイメントとして昇華していく行為なのかもしれません。
小説を書いたことがないので何とも言えませんが💦💦
作中で引用されたモーツァルトの言葉“音楽は自らの人生であり、人生は音楽である“が示すように、小説を書くことは自らの人生を糧に創作し、読者に希望を与える行為。また人生も小説のように、希望や絶望が付きまとうもあるという意味合いが込められているのではないでしょうか。
本作品もまた、著者の人生が凝縮された1冊なのかもしれません。
総評
幸せと不幸、光と闇、愛と憎しみ。人間の心の機微を巧みに掘り下げた、重厚な人間ドラマが魅力的な一冊です。ぜひ読んでみてください。
おすすめの1冊
本作品の特徴は「視点の違い」
似たようなプロット構成で「ぎんなみ商店街の事件簿」があります。
この作品は2冊でセットの作品となっており、とても心温まる物語です。
ぜひ読んでみてください。
書評記事は👇をチェック!!
コメント