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岡崎琢磨『鏡の国』の魅力を解き明かす

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書評

岡崎琢磨氏の『鏡の国』は、大御所ミステリー作家・室見響子の遺稿をめぐる複雑な物語。巧みな伏線と驚きの展開、そして登場人物の深い心理描写が光る傑作です。心理描写もさることながら、ミステリー要素も満載の本作品の魅力を解説していきます。

あらすじ

大御所ミステリー作家・室見響子の遺稿をめぐる物語。2063年、響子の遺作「鏡の国」に削除されたエピソードがあると発覚し、その謎に迫る展開です。作中小説に登場する4人の複雑な人間関係と、幼少期の事故の真相究明をめぐるミステリー。読後にある衝撃な結末とは・・・

登場人物

  • 香住響子                                            物語の主人公。元アイドルで、現在はライターとして働いている。「身体醜形障害」を発症しており、自身の容姿に強いコンプレックスを持っている。
  • 吉瀬伊織                                             幼少期から響子たちと近所で遊んでいた。現在は料理人として仕事をしている。幼少期から相貌失認を患っており、人の顔を認識することができない。
  • 新飼郷音                                                      響子の幼馴染。幼少期の火事が原因で顔に重度の火傷の跡がある。
  • 久我原巧                                                   響子の職場の同僚。響子がライターとしての仕事につくきっかけを作った人物。

書評

『鏡の国』の主な魅力は以下の3つです。

  1. 登場人物の心理描写
  2. 巧みな伏線と予測不能な展開
  3. 本の表紙にも隠された伏線

登場人物のリアルな心理描写
本作の主人公・響子をはじめ、登場人物たちの内面が丁寧に描かれています。特に響子の葛藤や苦悩は非常にリアルに描かれており、病気を知らなくても共感を覚えずにはいられません。


4人の関係性は一見仲が良さそうな反面、4人の会話には本音と建て前が混ざり、お互いに何かを探りあったような様子が多く、読んでいてハラハラ、ドキドキ感があります。ミステリー小説でありながら、人間模様のリアルな描写が多く、これも本作品の魅力の一つでもあります。


登場人物はそれぞれが何らかの問題を抱えています。
特に響子、伊織、郷音の関係性は物語の面白さをより際立たせています。
自身の容姿が気になって仕方がない響子にとって、顔を認識することができない伊織は、安心感のある存在です。一方で、郷音はコンプレックスだと感じていた火傷の跡が、伊織にとっては目印となることで、よくも悪くも、伊織に惹かれる郷音。一見綺麗な関係にも思えるようで、いつ壊れるかわからない儚さを合わせ持った関係は、物語をより一層盛り上げてします。

巧みな伏線と予測不能な展開
『鏡の国』は序盤から丁寧に描かれた伏線が、後半に向けて徐々に回収されていく構成が特徴です。読者を翻弄するような予測不能な展開が、ラストまで目が離せません。

人間模様の描写もさることながら、ミステリー要素もピカイチです。

火事の真相では入れ替わりトリック、また『鏡の国』のストーリー上で仕掛けられたミスリードや小説そのものにある削除されたエピソードの謎など、多岐にわたる仕掛けが施されていて、読んでいて非常に面白いと感じます。

本の表紙にも隠された伏線
表紙のイラストは4つに割れた鏡の中に、映る1人の女性のイラス。何気ないイラストですが、読後に改めてみると、また感じ方が変わるイラストになっています。

個人的な意見・感想

まさに「本気の仕掛け」が堪能できる素晴らしい作品だと思います。序盤から散りばめられた伏線が、予想外の形で回収されていく展開に、ずっとドキドキしながら読み進めました。

また、主人公・香住響子をはじめ、登場人物の複雑な心理描写もとても印象的でした。

ミステリー小説の枠を超えた、深みのある作品だと感じました。

しかし紙帯に書かれていた「反転、反転、また反転」という文言はやや過剰かなと感じます。

まあ、本をより多くの人に見てもらうためには、仕方ない部分もあるとは思いますけど💦

表紙に隠された謎について

表紙の4つに割れた鏡に映る女性の姿。読み始めた時には主人公である香住響子だと思わせている。
しかし実際には小説に施された仕掛けである、主人公の反転トリックから読み解くと、鏡に映った女性は、新飼郷音であることが作中でも言及されている。実施にイラストをよく見ると、左目に炎のようなものが描かれており、また火傷の跡のようなものも描かれている。また4つに割れた鏡はクワトルトリックを示唆していたことも言及している。

私自身この絵にはもう一つの解釈があるのではないかと感じている。
もしこのイラストに映った女性を鏡に映った女性としてみるのではなく、鏡の中から見たと想定した場合、左右の反転はなくなる。そうすると、登場人物3人の障害や、コンプレックスを暗示しているのかもしれない。頭頂部で割れた鏡は、身体醜形障害であり、前髪が気になってしかたがない響子、左目の部分は火傷の跡があり、コンプレックスとなっている郷音、そして右目にかかった靄のようなものは、相貌失認であり、人の顔を認識することができない伊織を示唆しているのではないかと、ふと思った。

しかしこの考えは4つ目の口元の部分について、あてはまるものがないので、信ぴょう性にはやや欠ける部分があるため、一個人の感想と思ってもらうくらいでいいと思います。

作中の一言

本作品は外見やルッキズムなどやや重たい現代社会の問題をテーマにした作品です。


作中での、主人公の響子と精神科医のやり取りが、いろいろ考えさせられることが多く、個人的にはおすすめです。


精神科医の先生が言った言葉が印象的でした。

何かを持っているからから価値があるわけじゃない。何も持っていないから価値がない、なんてこともない。あなたがあなたであることに絶対的なかけがえのない価値があるのだと、私はこれまでにも患者さんに繰り返し、真摯に説いてきたつもりです。

もちろん、ときには自分が手に入れたもの、積み重ねてきたものに誇りを持つのもいいでしょう。ですが、これだけは頭に入れておいていただきたい。

いつかは失われるもの、いつかは失われると分かっているものに決して自分の一番の価値を置いてはいけないのです。

岡崎琢磨『鏡の国』

正直な話をすると、容姿が良ければ得をすることは間違いなくあると思います。しかし、それ以外の自分の価値を見失ってはいけない。容姿は時間とともに変化し、失われてしまうものです。だからこそ、一番の価値あるものは別の大切なものに見出していく必要があると感じました。

総評

岡崎琢磨氏の『鏡の国』は、巧みな伏線と予測不能な展開、そして登場人物の繊細な心理描写が光る、完成度の高いミステリー小説です。ミステリーファンのみならず、ジャンルを超えて楽しめる作品です。ぜひ読んでみてください。

4.0

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