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【書評】ドローンが導く人間ドラマ「アリアドネの声」

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書評
作品紹介

著者: [井上真偽]

出版年: [2023/6/20]

あらすじ

地下都市WANOKUNIのオープニングセレモニー当日、突如として巨大地震が発生します。最下層で取り残されたのは、視覚・聴覚・発声の3重障害を抱える中川博美さん。主人公の高木春生はドローンのパイロットとなり、彼女の救助に向かいます。

しかし、救助に当たっていくうちに中川さんには不可解な行動がみられます。本当に障害者なのか?そんな疑念を抱きながらも、高木は無事に救助することができるのでしょうか。

主な登場人物

高木春生: 主人公。災害救助用ドローンのパイロット
中川博美: 3重障害を抱える救助対象者。「令和のヘレン・ケラー」と呼ばれる
伝田志穂: 中川さんの通訳兼介助者
火野誠: 消防士長
殿山知事: 中川さんの叔父

書評

ミステリー性とスリル満点のストーリー展開
本作はミステリー小説と呼ぶには賛否両論があるかもしれません。しかし、中川さんが本当に障害者なのかという”謎”が核心にあり、その答えが最後まで閉じ込められている点で、ミステリー性は高いです。

主人公の春生は中川さんの不可解な行動に次第に疑惑を募らせ、読者もその疑念にいつの間にか巻き込まれていきます。真偽をハッキリさせないモヤモヤとした描写が、ミステリー小説ならではの緊張感を生み出しています。

加えて、本作の大きな魅力は以下の2点です。

時間制限と障害者救助という斬新なプロット
視聴覚障害者を対象とした救助ミッションは過酷で、ドローンを活用した描写がリアリティを生んでいます。
緊迫したタイムリミット
残り時間わずか6時間という設定が緊張感を高め、最終ページまで読者の胸を熱くさせます。

障害者描写の意義と課題
一方で、登場人物が障害者や家族を亡くした者ばかりなので、読者が感情移入しづらい側面もあります。しかし、そうした特殊な設定こそが本作の独自性を生み出し、障害への理解を深める意義もあるでしょう。

個人的な意見・感想

次々と立ちはだかる障害を救助隊がどう乗り越えるのかをハラハラドキドキの緊迫感とともに追体験した。さらに、中川の障害が詐称ではないかという疑念があり、その謎の解明にも強く興味が惹かれました。そして最後の衝撃的な結末は、想像をはるかに超える驚きに満ちています。

作品の核心には、主人公が耳にした「無理だと思ったら、そこが限界」という言葉が胚胎している。この言葉には、二重の意味が込められている。

  • 諦めずに挑戦し続けることの大切さ
  • 時に無理を認めてリセットすることの賢明さ

人生の教訓を見出すことができる名言だと感じます。

また、近未来的な設定やチャレンジングな障害者救出というプロットの斬新さも、この作品の大きな魅力でした。リアリティあふれるドローン操縦の描写からは、ドローン技術の可能性を垣間見ることができ、そして最終的に示された人間の可能性にも、希望を与えてくれます。

緊迫感あふれるストーリー展開、メッセージ性の高さ、そして新鮮な設定という3つの要素が見事に融合した、作品です。胸を熱くさせられる一冊に出会えて本当によかったです。

総評

ミステリー性とスリリングな障害者救出劇という二つの要素が見事に融合した傑作です。緊迫感あふれるストーリー展開、メッセージ性の高さ、新鮮な設定の三拍子が揃った作品に出会えて本当によかったです。

ミステリー小説ファンはもちろん、障害者や災害救助への関心があるという方にもおすすめの一冊です。

3.8

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