発売から1週間で重版が決定した話題作、井上真偽さんの「ぎんなみ商店街の事件簿」をご紹介。
Brother編、Sister編の2部構成。同じ事件を扱っていますが展開が大きく異なる本作品。
あなたはどっちから読みますか?真実はいつも1つとは限らない!!
あらすじ
古き良き商店街で起きた3つの事件をもとに物語が進行。それぞれの事件について、四兄弟と三姉妹が捜査にあたります。それぞれの視点で物語進行し異なる真相にたどり着く…
書評
この小説は、「brother編」と「sister編」の2冊に分かれ、異なる視点から物語が進行します。作中の事件は3つあり、同じ事件を扱っているにも関わらず、それぞれの編で異なる真実に辿り着く構造が特徴的です。
2冊を通して読むことで、事件の全体像が明らかになりますが、片方だけを読んだ場合、やや謎めいた部分が残ります
特に注目すべきは、ストーリー全体を通しての謎解き。最終章において、保険金詐欺を吹き込んだ真犯人の正体が見事に明らかにされています。この巧妙なプロットは、ミステリー小説の真髄を味わわせてくれます。
物語には、今は亡き4兄弟の母の思い出描写や、他の登場人物が語る母親の真の姿が随所に登場します。これにより、物語に深みが加わり、登場人物たちの背後に潜む複雑な感情を垣間見ることができます。
「brother編」と「sister編」は同じ事件を扱っていますが、物語の随所で交差している点が本作の魅力の一つです。ただし、続けて読まないと細かい部分を忘れてしまう可能性があり、各話のつながりが見つけにくくなることが欠点と言えるでしょう。しかし、どちらか1冊だけ読んでも1つの真実にたどりつけるため、ミステリー小説としての楽しさは失われません。
どちらから読むべき???
「brother編」と「sister編」どっちらから読むべきか、
結論から言うと、どちらからでもいい。
ただし、各章ごとの交互読みがおすすめです。
どちらから読んでもこの作品は存分に楽しめます。
ちなみに私はbrother編から読みました。
読む順番によっては事件に対する印象も大きく変わるため、「sister編」を先に読んでいたらどのような印象を抱いていたか想像するも1つの楽しみとなっています。
私としては、brother編から読むことをお勧めします。
物語構成上、4兄弟の亡き母親がストーリの中でたびたび登場します。ストーリの核となる部分も担っているため、brother編を読み、情報を補っていく形でsister編の読むと、より分かりやすいのではないでしょうか。
感想
brother編とsister編のどちらが好きかと問われれば、個人的にはbrother編を選びます。理由はいくつかありますが、兄弟のバランス感が非常に良いことが最大の魅力です。
長男の元太はイケメンで優しく、人脈も豊富。次男の福太は感が鋭く、兄弟たちのバランサーとしての役割を果たしています。三男の学太は勉強が得意で推理力も抜群。そして、四男の良太はまさに癒し系の存在です。特に、良太の行動や発言は読んでいて非常に心地よく、何度も癒されました。
また物語の隅々に織り交ぜられる亡き母の思い出が、深みを与えていると感じます。母親の人脈の広さや人柄の良さは、sister編に登場する人物たちにも影響を与えていることが興味深いポイントです。
兄弟たちの関係や母親の存在が、物語に温かさと奥深さを与えていると思います
おすすめの言葉
ここでは作中に出てきたて心動いた言葉をご紹介します!!
「世の中に良い人なんていない。
なぜなら人間誰しも我が身が一番可愛いから。肝心なのは、我が身可愛さのもとで、その人がどういう人間になろうとしているか。その方向性を決めるのが良心」
ぎんなみ商店街の事件簿〈Brother編〉
これは四男・良太の名前の由来にもなった亡き母親の言葉です。
「良い人はいない」と断言できる母親の強さが感じられます。しかし、人は誰しも自分が一番大切だと思う「我が身可愛さ」を持っているという指摘も的を射ているでしょう。その上で、自分の良心に従って、どんな人間を目指そうとするかが大切だと説いています。
良心とは自身に内在する価値観(規範意識)に照らして、ことの可否ないし善悪を測る心の働きのこと。または、人としての良い心を持つ自身の状態であると定義されています。
この言葉を見て私自身も正しい良心を持ち、人に少しだけでも優しく接することができる、そんな人間になりたいと感じました
第1章のストーリー構成と良太の名前の由来はリンクしている??
第一章の串刺し事件では、人のためを思った行動が予期せぬ結末を招く様を描いています。
視点によって同じ行為が善悪両面の評価を受けることも示唆されています。
まさに自身の価値観に照らし合わせての行動が事件につながったともいえるでしょう。
この事件を四男・良太が目撃したことも何か意味があったのかもしれません。
※個人の感想です
総評
この作品のテーマは「視点の違いで真実が変わる」ということ。brother編とsister編を両方読むことで初めて事件の全貌がつかめます。全体を通しての巧妙な謎解きと、登場人物である兄弟・姉妹たちの個性が魅引的です。特にbrother編では四兄弟バランスの良さと、母親の影響が物語に深みを与えています。どちらか1冊だけでも楽しめますが、両編を続けて読むことで物語の奥深さが味わえます。
新感覚ミステリー、今までにない読書体験ができる1冊(2冊)です。
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